ミンスク(ベラルーシ)で開催中の2012フィギュアスケート・ジュニア世界選手権の女子フリーが日本時間4日未明に行われ、今シーズンのジュニアは総ての日程を終了しました。優勝は大方の予想通り、ロシアのユリア・リプニツカヤ(13歳)、二位がアメリカの16歳、グレイシー・ゴールド、三位に昨年優勝のソトニコワ(15歳)。台乗りの三名は点数的に頭三つ抜けで四位以下は大きく水を開けられた格構です【下のPDF参照】。今世紀に入ってアジア系(含アジア系アメリカ人)に席巻されてきた表彰台に、昨シーズン辺りから欧米系が戻ったようです。この流れは二年後のソチ(ロシア)と六年後の平昌(韓国)の両オリンピック間の何処かであるかも知れないISU:国際スケート連盟によるギアチェンジまでは続きそうな雲行です。我が世の春を謳歌していた日本選手にとって冬の時代の到来で。とは云え地球規模の温暖化が懸念される時代だけに先のことは解りませんけれど。

 


ポリーナ・コロベイニコワ、ハンナ・ミラー、リ・ジジュン、キム・ヘジン、ケイトリン・オズモンド、コートニー・ヒックス、ヴァネッサ・ラム、ポリーナ・シェレペン、ポリーナ・アガフォノワ、ゲーリ・リーナマエetc.,。上述の台乗り二名に加えて*1、今年のジュニア・サーキットに登場し印象を残した面々です。ジャンプのエッジ取締が始まった2007-8シーズン以後の育成プログラムに従って育った世代が本格的に国際舞台に登場する時期にも当たる現在、ジュニアの演技の底は確実に上っています。昨シーズンの飛び抜けた二人の14歳(ソトニコワとトゥクタミシェワ)の超新星の驚きはないにしても、一群の輝きの総量ではそれを凌ぐものがあります。モントリオールは二昔(年)前になると同時に、各国とも堰を切ったように新世代の擡頭目覚ましい季節に突入したとみて良いでしょう。オリンピックで頂点を極めたシニアのトップ選手達が引退したポストシーズンの空位をシニアデビュー仕立てのフレッシュな16歳のアジア選手達がスムースに占めたトリノ時と比較すれば、もう二シーズンは世代交替が遅れているのですから。宮原知子、庄司理紗、佐藤未生以下新人が目白押しの日本も事情は同じです。この流星群の中に、或いは未だ隠されてある誰かかも知れない、フィギュアスケートの将来を担うスターがいるに違いありません。

2011年8月最終週のジュニアグランプリ開幕から半月を経過した9月中旬、ポーランドのグダンスクで行われたシリーズ第3戦のジュニアデビューを二位の表彰台で飾った国際的に無名の13歳が、欧米のフィギュアスケート掲示板に於てちょっとしたコップの中の嵐*2を惹き起します。彼女の名は宮原知子【みやはらさとこ】。そこでの否定派は、身長141cm*3の幼女は到底ジュニアに見えず、その下のノーヴィス・クラスにありがちなせかせか演技をしているだけと受け止め、それに対して肯定派は体は小さくともスケート技術の確かさはノーヴィスと比較にならないと反論する。断わるまでもなく私は後者に与する者でありますが、じっさいの演技についてはyoutubeに今季の試合動画の幾つかがアップされています。右のyoutube動画リンクは、上がジュニアグランプリ第3、第6戦(ポーランド大会とイタリア大会)のFSをひとつに纏めたものです。シニアと違い商業ベースに乗り難いジュニアの試合について、ISUは今季からyoutubeに公式チャンネルを開設し、試合中に10分程度のタイムラグで全選手の動画をアップし始めました。それをベースに昨秋私が編集したものですが、時間が立ちすぎてしまい制作当時の意図が曖昧になっています。取り敢えず二大会分を一度に見られるのは便利でしょう。下は先日のジュニア世界選手権のFSです。こちらは日曜日の深夜枠(フジTV)に放送されたものがさっそく親切なファンの手でアップされました。

また、トリノオリンピック当時のフィギュア強化部長城田憲子氏が最近のコラムで宮原選手を採り上げ、その魅力を的確に分析しています。

……競技会が近づくにつれ、ステップやターンを抜く選手が多い中、宮原は作ったプログラムを何も省かず忠実にこなしたそうだ。だからジャンプ、これから跳びます—という感覚ではなく、パトリック・チャンみたいにトラディションの中でジャンプやスピンをこなしていく、流れの中で要素を遂行出来るのだ。……

: from スポーツ報知 城田憲子の「フィギュアの世界」2012年1月26日

数多のスケート・エリートから宮原知子を画然と分つものは上の赤太字部分だと思うのです。初見の折、ジャンプ構成を知らずに見ていた私は終了間際になって未だ2Aが一つ残っている、自明と云えば自明の事実*4に狼狽したものです;体格的に見栄えのするジャンプとはお世辞にも言えないながら、絶壁でもなく深海でもなく、そのあわいに雲母めいて跳ねる黄金の鱗の3分40秒の無窮動の只中で不図目醒めた時間がちょうど散会の時刻であったことを今でも怪しく思うのです。現実らしくもない、確かにこれはお伽話めいてる。FSの使用曲はラヴェルのマ・メール・ロワ*5だから辻褄は合っている。のか

爾後、ジュニア世界選手権に到るまで毎度胸をときめかせて彼女のFSを待ち受けることになります。しかし初端の感動は竟に再現されずじまいでした。理由は幾つか考えられます。

1.二度目のジュニアグランプリ・イタリア大会のように、リンクの氷質が悪い方に変化した場合に*6緒戦のような自由闊達が実現されない。

2.二度目のジュニアグランプリ・イタリア大会ではデビュー戦と打って変わってジャッジの眼が厳しくなったらしく、回転不足を多数取られ点数が伸びずに終ったことを気にしてか、以後の試合のジャンプ(とりわけトージャンプ系)から伸びやかさが消え始めた。

宮原さんは現在13歳、今月末(3/26)にようやく14歳になります。ほんとうに若い選手ですが、小柄な体には可能性と宿題とを一杯詰め込んでいます。宿題と云えば、周辺から漏れ伝わる情報によると、彼女はスケートばかりでなくて学業の方も優秀だとか。じっさいに通信簿を覗き見たわけではないけれど、一度犯した失敗は二度繰り返さない式の演技スタイルからもそれは窺えることで。聡明であることは間違いないでしょう。はやく大きくなーれ♪